駒沢女子短期大学「Co-Creative Art Workshopについての対話的省察」紀要論文から考察したAki造形教室の教育方針
- akikoganezawa
- 2021年6月23日
- 読了時間: 6分
今年3月にUPされた駒沢女子短期大学の紀要論文を拝読しました。
Aki造形教室のこれまでの活動内容を思い出しながら、いわば「答え合わせ」のような神妙な気持ちで読み進めさせていただきました。
私が実践していた教育方針に統計的な裏付けができたような感覚で嬉しかったです。
論文の内容を参照しながらトピックス的にお伝えします。
ワークショップを通しての研究結果のため、Aki造形教室の「造形レッスン」を対象としながらお話しします。
わ!ここ!まさに一緒!という部分を抽出して私なりに解釈しています。
捉え方が違ったらごめんないさい。ご意見も承ります!
1 Aki流「上手に描けたね」と言わない
まず最初に、この研究の背景として
”周りの友だちと自分の作品を比べ、「〇〇ちゃんは上手だけど、僕のは上手じゃない。」といった発言をし、他者と自身の表現を比べてしまう子ど もの姿も見られた。このように、正解がなく、自由な表現を楽しむことが表現活動のねらいの 一つであるにも関わらず、自身と他者を比べ、作品の出来栄えや見た目に意識が偏重してしま う子どもの姿について、担任間で課題として挙げられてきた。これらの課題意識や子どもの姿を背景に、本ワークショップでは造形表現の本来の楽しさを子どもたちに感じてほしいという保育者の願いがあった。”
と、ありました。
学年が上がるにつれて周りの目を気にするようになります。
これは正常な発達と言えるでしょう。
でも、正解がある環境に慣れてしまうとアートのように正解がない世界でどう立ち振る舞って良いか分からなくなってしまうのです。
アートのワークショップを通して
【正解がない直感的にやっていく】【失敗という概念がない】【他人と比較されない】【プレッシャーがない】【予想できない面白さ】
という世界に入ることができます。
研究の考察では、これを「砂遊び」と似ていると表現していました。
自分の手や足で触感を愉しみ、他者とコニュミケーションを取りながら偶然にできたストーリーの中で手を動かして行きます。
Aki造形教室では、出来上がったものよりのもの工程に目をかけ声をかけるようにしています。
極端な話、時間内に作品が出来上がらない子もいます。
例えば、チューブから出したいろんな色の絵の具をパレットの上で混ぜて1時間経ってしまった子もいました。
でも、本人の目はキラキラ輝いていました。
色が混ざっていくさまをずっと、観察し続けていたのです。
お子様をお預かりしている以上、時間内に成果物(作品)を持ち帰らせたい、できれば上手に描けた作品を持ち帰らせたい、と思ったこともありました(今もつい、「上手に」描けたものを、と頭で考えてしまう時があります)
しかし、この研究によると作品そのものより、「制作の「過程」が作品として 成立する現代美術のワーク・イン・プログレス の概念と同様で重要なこと」と示していました。
これまでと同様、作品の良し悪しより、その過程に目配りすることを続けていきたいと思います。
冒頭に書いた「上手に描けたね」と言わない件に関しては、
私は声かけのポイントとして「作品おうむ返し」をしています。
たくさん線を描いた作品だったら「この線、長いね〜!」
色を混ぜまくって真っ黒になっていたら「混ぜたね〜!」
など、まずは事実をおうむ返しにしてみます。
すると「これはねぇ〜」とその制作過程を一生懸命お話ししてくれます。
もしも、我が子が作品を持って帰ってきて、お世辞にも「上手〜!』と言えなかったら「作品おうむ返し」を使ってください(笑)
特に、「上手に描かなきゃ」とプレッシャーがかかっているお子さんにとって「上手に描けているかどうか」のジャッジをするよりその過程が楽しいんだよね!とコミュニケーションをとったほうがこの先アートを楽しんで取り組んでいただけると思います。
お子さんの作品の褒め方にお困りでしたらぜひ!やってみてください。
2私は先生ではない
この研究ではワークショップの企画から実施、振り返りまで計10回のMTGを録音し、収録したダイアログを概念化し、マッピングする作業が行われたそうです。
そのデータ解析の中で、対象となる子供を中心に、保育者・研究者・芸術家・ 保護者に留まらず、地域や社会等、様々な要素が密接に関わっていることが分かりました。
また、それらの関係はピラミット型ではなく、皆並列的な関係であることが重要なことがわかりました。
慎重に塗り進めていた子が、大胆に楽しそうに塗っている他の子をみてワークショップの終わりの方にはとても大胆な筆運びになっていたり、
普段集中力の続かない子供が、ワークショップで大人たちに受容的な声かけをしてもらったことで最後まで楽しそうにのびのびと制作をしていたり、
アート制作の時間には友達、先生、保護者など本人を取り巻く環境が並列的な人間関係だということがとても重要な要素となります。
そういった意味では私は今までもこれからも「教える」ことをしません。
一緒に楽しんで、一人一人の「今」に共感できるように神経を使っています。
ぜひ、保護者の皆様におかれましても
「鉛筆は右手で持て」「空は青く塗るように」など上下の関係で指導するのではなく、本人の心の赴くところに一緒に心の旅に出る感覚で楽しんでください。
これからのAki造形教室の活動について
本研究では「芸術家の役割についての考察」も述べられていました。
”活動事後の対話で挙げられた一人の子どもの エピソードから、ワークショップにおける芸術家の役割は「空間を演出すること」であると考えた。
[対人関係にトラブルが多かった男児B]
「…活動のときは全然そういう感じではなかっ た。自分から仲間にも入ることができ、友達もBくんの持っている色をみて“その色いい色だ ね”と褒めている姿がみられた。誰も否定する人がいなくて、あの空間が誰もBくんに対して否定的じゃなかった。”
上記のように、芸術家が入ることによってその空間を演出し子供達の人間関係さえも変えていくのです。
”アートという曖昧で抽象的な概念を、「作品を通して人の気持ちや心を動かす」と仮定すると、アート性のある空間を演出すること で、子どもたちの感性が自由にされ、他の人の 表現も受容できる心へと変容し「自分らしさ」 が認められていく体験を提供する空間づくりで あるとも言える。”
Aki造形教室でも、これからもたくさんの造形体験を提供すると共に、芸術家としての側面をどうやって作っていくかを企画していきます。
まとめ
アートは、十人十色。皆違って答えはありません。
「問題があって答えがある」という環境に慣れすぎている子供にとっては
何から手をつければ良いか。。。となるかもしれません。
これからの時代、むしろ答えが明確に出せる仕事はAIがやってくれる世の中になるでしょう。
答えのない問題を問い続けたり、自分で課題を見つけたり、
そのように人生を面白がることができる人間に成長してもらいたい。
そのような思いで、日々活動していきます。
引用文献
2021年3月
著者:
西村 愛子 、松本 哲平 、山本 双葉 、大久保 祐衣
タイトル:
駒沢女子短期大学「Co-Creative Art Workshopについての対話的省察」




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